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Sairuma! より
佐枝せつこの
Book-review    噂の「サイっち本」

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逸見チエコ 著 
マイクロマガジン社

額ほどの庭に白い小石を敷き詰めた。ところが毎日どこからか現れる猫が決まった位置に糞をするように。。。庭師に相談をすると「許してあげてください。可愛い猫ちゃんのことですから」と。なんで猫の肩を持つの! と怒りながら、日々割りばしで糞の始末をするうちにすっかり猫嫌いになった。

 

ところが、本日の紹介本は『看板にゃん猫』。猫の話である。

著者はライター仲間の逸見チエコ。だから贔屓目に読んだわけではないが、様々な店にいる猫たちの物語が実に面白い。猫と猫を愛する人との関係性を著者が独特の哲学で捉えているのも興味深い。中でも私が気に入ったのは、カフェに住む「親分と呼ばれた猫」の物語だ。

 

ノラだった猫をカフェの店主いずみが保護をする。病院に連れていき、FIV(猫免疫不全ウィルス感染症)に羅漢していることが分かり九日間の入院。退院後はいずみの曽祖父と同じ「銀次」と名付けられ、カフェで暮らす猫としてのルールを教えられる。

 

いずみから名前を呼ばれた瞬間、生きる意味が生まれたのだと喜ぶ銀次。いずみが命を救ってくれただけではなく自分と一緒に生きようとしていることも知り恩を感じるようになる。家族経営で忙しい店で何とか自分も役に立ちたいと思うのだが、自分の体は猫である。それを歯がゆく思う銀次にいずみが言う。

 

「恩なんて返さなくていいんだよ。猫であること以外に使命感などあるはずがない」

ありのままの自分でいいのだと実感する銀次。いずみに愛されている自信が銀次を成長させていく。子分たちができ、やがて親分として猫の未来について考えることも。輝く日々は続くのだが、別れはある日突然にやってくる。いずみと出会えた日々は幸せだったから悔いはない。けれど残されたいずみがどんなに悲しむのかと思うとそれが辛いと死んでからも銀次は嘆くのだ。銀次の生きざまは切なくて実に潔い。

 

銀次の物語は本書の14の奇跡の一つであり、他にも「ナンバーワンホストだったオレ」「復興猫として生きる」など、猫と飼い主の心の交流が描かれた奇跡とファンタジーの物語が詰まっている。「猫は言葉が話せません。でも心は通じます」とは著者の言葉だが、本書を読み終えて、私の猫嫌いが少し解消されたような気がする。

 

今度、庭にやってくる猫に話しかけてみようと思っている。「糞は自分の家でしなさい」それさえ通じれば案外仲良くなれるかもしれない。(佐枝せつこ)

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